この普遍性は同時に、韓国ドラマの物語内でも見事に考えられている。本作の冒頭場面が武人の時代に設定されていることはさっき触れたが、この世をさまよう死者たちが集まるホテルが舞台であることを事前に了解して本作を視聴し始めたというのに、「えっ、どこが?」みたいな驚きが逆にツカミになる。自らの行いをざんげするマンウォルが、超人的な力でホテルデルーナの経営者になる過去はファンタジーのような画面連鎖で描かれる。剣を構えたマンウォルの前に、亡霊戦士の軍勢が押し寄せる場面は、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)みたいな迫力。ファンタジー的なスペクタクルでありながら、現在時点ではコメディータッチのホラーにうまく流れるという、韓国エンターテインメントの底力を感じるドラマツルギーではないか。
この世とあの世の狭間で働くホテルデルーナの従業員たちも一人ひとりがユニークなキャラクターで、その軽妙なやり取りはティム・バートン監督作を思い出させるところがある。あるいは、レスリー・チャン主演の『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』(1987年)のようなアジアらしいファンタジーホラーの雰囲気だってある。こうした豊かな作風は、豪華なホテルを舞台にすればそれだけで面白くなるだろうと高をくくらず、工夫をおしまない制作陣の姿勢からきている。確かにホテル作品は一見、それだけで面白そうだが、『グランド・ホテル』(1932年)のような古典を別にすれば、伊丹十三監督の『ミンボーの女』(1992年)以外、傑作を探すのは意外と難しい。
そのため『ホテルデルーナ』では、まず幽霊ホテルをこしらえ、マンウォルがヒョンモにチャンスを与えることで大胆な展開に結び、視聴者を飽きせない。そのチャンスの条件とは、息子が成長したら、自分のところで働かせること。20年後、ク・チャンソン(ヨ・ジング)は優秀なホテルマンになっていた。どんな青年になったかと期待していたら、パリッとしたスーツに身を包んだチャンソンが、国内の高級ホテルにヘッドハンティングされる。21年目に安心していたチャンソンだったが、そこへマンウォルが現れる。もちろんホテルデルーナで働かせる強制的なヘッドハンティングのため。ひやぁ、怖い。でもあの幽霊ホテルで彼がどんな支配人になるのかしらと想像してしまう。本作がホテル作品の傑作かどうかの判断はここでは急がないけど、やっぱり沼ってるみたい。
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