この世とあの世の狭間を舞台にして、夜ごと死者たちが集まるホテルがある。漢江で溺死した女性が青白い顔でチェックインする。重い雰囲気とは違う。なるほど、これは軽快なコメディーだ。自分が死んだのかどうかわかっていない盗人のク・ヒョンモ(オ・ジホ)がまだ完全には死者ではない人間の状態でさまよい込む。ホテル内での些事に目を光らせる社長のチャン・マンウォル(イ・ジウン)はすぐ気づいて問答無用で闖(ちん)入者を裁こうとする。本作冒頭、マンウォルは1000年以上前の戦乱の時代を生きる武人として描かれていたけれど、どうやら現代までこのホテルデルーナの経営を任されているらしい。理由はどうあれ、これは「沼る」という前評判通り、確かに沼りそうな。
韓国ドラマが油断ならないのは、沼ったか沼ってないか判然としない状態ですでに潜在的に沼ってしまっていること。沼り以前の沼り状態だから、知らず知らずのうちにどんどん泥濘にはまり込む。日本のテレビドラマよりだいぶ長尺なのに、気づいたら次のエピソードへの再生ボタンをほとんど脊髄反射的に押しているのはそのためだ。
日本での韓国ドラマブームというと、ヨン様ことペ・ヨンジュン旋風で2003年から放送された『冬のソナタ』をすぐに思い出す。でも放送時の韓国ドラマ視聴と現在では少し意味合いが変わってきていると思う。当時はまだなかったサブスクリプションによるドラマ配信の時代では、韓国ドラマを意識的にしろ無意識的にしろ、浴びるように視聴する前提が整備されているからだ。だから『ホテルデルーナ~月明かりの恋人~ (以下、ホテルデルーナ)』に沼るという現象自体がもはや当たり前というか、日常的な韓国ドラマ視聴の普遍的な風景にほかならない。 韓国の国民的存在IUが主演であることも象徴的。
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