映画『ヴィレッジ』の横浜流星は、なぜ忘れられない“顔”なのか。6度目のタッグで複雑な感情を表現

■ 「幽玄」を感じる旅

(C)2023「ヴィレッジ」製作委員会

この顔を見て、本作が、能の世界を借りた理由がわかってくる。能の世界は、「幽玄」を表現している。幽玄とは、定義が難しい概念だが、とにかく夢と現実がまぜこぜになったその先、寒気がするくらい研ぎ澄まされた感覚くらいに考えてほしい。

幽玄は、ちょっとやそっとのことでは体感（あるいは体得）できない前人未到の境地みたいなもの。だが筆者は、深い輪郭の横浜の顔に、うっすらと幽玄を見た。藤井監督とのタッグは、横浜にとっての俳優として、ひとりの表現者としての精神修行の旅だとすると、今回その旅の途中で、能の世界に立ち寄り、幽玄の領分に立ち寄った。藤井監督作に出演する度にひげが伸びているような印象は、この修行が激しさを極めていることを意味する。彼の魂は、鍛錬に鍛錬を重ねることで、強く、清く、純粋になる。

境地にたどり着いたとはいかないまでも、すくなくとも能の幽玄的な何かを横浜は、間違いなく感じている。だから、あの顔の生々しさには鬼気迫る不思議が自然と宿ったのである。